人並みに子供の教育について考えたりもするもので、巷で話題になっているらしいと気になってたので読んでみた。
以下、備忘録的にざっくりかいつまんで要約。
教育経済学に基づく、より費用対効果の高い教育とは
東大生の親の平均年収は約1000万円
文部科学省の調査によると、親の学歴や所得が高いほうが、子供の学力が高いことが示されています。また「学生生活実態調査」(2012年)によると、東京大学では、親世帯の平均年収は約1000万円となっており、世帯収入が950万円以上の学生の割合がなんと約57%を占めています。
- ご褒美は「テストの点数」などのアウトプットではなく、「本を読む」「宿題をする」などのインプットに与えるべき
- アウトプットにご褒美を与える場合には、どうすれば成績を上げられるかという方法を教え、導いてくれる人が必要
- ご褒美を与えることは、必ずしも、子供の「一生懸命勉強するのが楽しい」という気持ちを失わせるわけではない
自尊心は「結果」にすぎない
- 自尊心が高まれば、子どもたちを社会的なリスクから遠ざけることができるという有力な科学的根拠は、ほとんど示されなかった。
- 自尊心と学力の関係はあくまで相関関係に過ぎず、因果関係は逆である。つまり学力が高いという「原因」が自尊心が高いという「結果」をもたらしている。
- 子供を褒めるときには、もともとの能力ではなく、具体的に達成した内容を挙げることが重要
- テレビやゲーム「そのもの」が子どもたちにもたらす負の因果効果は私たちが考えているほどには大きくない
平均的な学力の高い友達のなかにいると、自分の学力にもプラスの影響がある
- 学力が優秀な子供に影響を受けるのは、上位層だけ。「学力の高い友達といさえすればよい」は間違い。
- ルームメイトから「成績」に対して受ける因果効果はほとんどない一方で、「行動」に対して受ける因果効果はたいへん大きなものだということがわかった
- 習熟度別学級は、ピア・エフェクトの効果を高め、特定の学力層のこどもたちだけではなく、全体の学力を押し上げるのに有効な政策である
- 習熟度別学級により、特に大きな学力上昇がみられたのは、もともとの学力が低い子供たちだった。
- 子供の学齢が低い時に習熟度別学級を実施すると、格差が拡大し、平均的な学力も下がってしまうと指摘されている。
人的資本への投資はとにかく子供が小さいうちに行うべき
- もっとも収益率が高いのは、子供が小学校に入学する前の就学前教育(幼児教育)
- 一般により多くのお金が投資される高校や大学の頃になると、人的資本投資の収益率は、就学前と比較するとかなり低くなる。
- 就学前プログラム(ペリー幼稚園プログラム)に参加した子供達は、入学時点のIQが高かっただけではなく、その後の人生において学歴が高く、雇用や経済的な環境が安定しており、反社会的な行為に及ぶ確率も低かった。
- 非認知能力は将来の年収、学歴や就業形態などの労働市場における成果に大きく影響する
学力テストでは計測することができない非認知能力が、人生の成功において極めて重要であることを強調している。また、誠実さ、忍耐強さ、社交性、好奇心の強さ、これらの非認知能力は「人から学び、獲得するものである」。
少人数学級には効果があるが、費用対効果は低い
- 教育を受けることの経済的な価値に対する誤った思い込みを正すだけで、子供の学力は上がる
- 親や子供たちが教育の価値を過小評価している場合、正しい教育の収益率を知る、つまり「教育を受けることの経済的な価値」に対する誤った思い込みを正すだけで、子供の学力を高めることができる
- 高校を卒業後すぐに働き始めた人と、大学を卒業してから働き始めた人の間では、生涯で稼げるお金に実に1億円の差がある。
- 親への補助金が子供の学力を上昇させる効果を持つかどうかについては、コンセンサスが得られていない
- 学校で平等を重視した教育「手をつないでゴールしましょう」という方針の運動会などーの影響を受けた人は、他人を思いやり、親切にし合おうという気持ちに「欠ける」大人になってしまうことが明らかになっている
平等主義的な教育は、「人間が生まれながらに持つ能力には差がない」という考え方が基礎となっています。ですから、努力次第で全員が良い成績を取れると考えるわけです。しかし、残念ながら、現実にはそうではありません。子供の学力には、遺伝や家庭の資源など、子ども自身にはどうしようもないような要因が大きく影響しています。しかし、平等主義的な教育のもとでは、こうした現実にはあまり目が向けられることはありませんでした。この結果、子どもは本人が努力しさえすれば教育によって成功を得られる、別の言い方をすれば、成功しないのは、努力をせずに怠けているからだと考えるようになってしまい、不利な環境に置かれている他人を思いやることのないイヤなタイプの人間を多く育ててしまっているのです。
教員研修が教員の質を高めるというエビデンスは多くない
- 少人数学級によって教員の「数」を増加させることよりも、教員の「質」を高める政策の方が、教育効果や経済効果が高い可能性があるのでは
- 能力の高い人に教員になってもらうには、教員になるための参入障壁をなるべく低くする、つまり教員免許制度をなくしてしまうのが良い。
ボーナスを受け取る権利を持つ教員を、ランダムにボーナスを「得る」グループと「失う」グループの2つに分けた。ボーナスを得るグループは付加価値の上昇に応じて学年末にボーナスが得られるが、もう一つのボーナスを失うグループは、最初に一定のボーナスを得られるが、学年末に目標の付加価値を達成できなかった場合はそのボーナスを返還しなければならない。ボーナスの金額は同じ。結果、成績が上昇したのは「ボーナスを失う」グループの教員に教わった子供たちだった。
読んでみての感想
まず前提であるエビデンスが正しく設定されているかどうか少し疑問。日本の事例はほとんどなくアメリカのそればかりで、それをそのまま持ってきて適用していいものかどうか。
ということをさておいて充分正しいことが書かれていると仮定しても、気をつけないといけない点が。それはこの本が費用対効果の高い学力(テストの点数)の伸ばし方について書かれている本だという事(非認知能力についても触れてはいるが)と、教育をマクロ的に見ていて個々の事例を最初から考慮していないという事。
学力と所得が相関関係にあるのは確かだろうけど、所得と人としての幸福がそうかはまた別の話しだし、全体で見て正しいことが自分の子供にも正しいのかはこれまた別の話しだよね、という当たり前っちゃ当たり前の話。
基本的にはとても有益な内容で、「教育にエビデンスを」の主張は本当にその通りだと思う。実験も失敗もできない「教育」みたいものにこそエビデンスのある政策が必要。
(画像は本の内容と一切関係ありません)